晴れ渡る空と、どこまでも続く水の流れ。
知神の港のボラードに腰掛けて、巨大なサリャク神の像を眺めながら、澄んだ空気を思い切り肺の中に取り込む。体の中が涼しさで満たされていく。オールド・シャーレアンは寒いが、走ってきた後の火照った体には丁度よかった。
道行くグリーナーが時々声をかけてくる。シア・レイさん、とフルネームで呼ぶ者もいれば、シアちゃん、と親しげに呼ぶ者も、そして英雄殿、と仰々しく呼ぶ者もいる。が、グリーナーたちはみな等しく気さくだ。
(初めて来たときのピリピリした雰囲気が嘘みたいだ)
終末を退けてから、もう何度そう思ったかわからない。それでも、何度でも何度でも、シアはそう思う。こんなに暖かい街だったんだと。それはこのオールド・シャーレアンという街が、人々がもとから持っていた暖かさに違いない。
シアが最も大切に思う人が、この街のために尽力しているから、余計にそう思う。
「ラハくん、来ないなあ。忙しいのかな」
バルデシオン委員会を再建するために日々奔走するグ・ラハ。休日はあってないようなものだ。それでもシアが冒険者稼業のためにオールド・シャーレアンに向かうとの一報を受けるや否や、無理やり時間を作り上げたらしい。
かくして、僅かな時間ではあるが、二人はラストスタンドでお茶をしながら、お互い近況報告をすることになった。最近のシアはラザハン近郊で仕事をしていたため、グ・ラハに会うのは久しぶりだ。楽しみで、うきうきする。
ぴくり、音を捉えたシアの耳と尻尾が跳ねた。こちらへ向かってくるグ・ラハの声がする――が、どことなく、困ったような声色だ。どうしたんだろうと思う間もなく、続いて甲高い、よく知る少女の声も飛び込んでくる。喧嘩をしているわけではないようだが、二人とも、とても困惑している様子だ。
「アリゼー?」
「え、えッ、シア!? ど、どどどど、どうしてここに!?」
「仕事でこっちに来たんだ。アリゼーは里帰り? ガレマルドは寒いから、親御さんも心配するもんね」
「さ、里帰りというか……それも兼ねてはいるけど……」
突然シアに声をかけられて、アリゼーの声は裏返っている。それほど大きな声は出していないのだが、よほど驚かせてしまったのだろうか。
そんなことを考えていると、アリゼーが隣にいるグ・ラハを思い切り睨み上げた。
「ラハあなた、このために私を呼んだのね!?」
「いや違うんだ、オレはアリゼーがこっちに来るの知ってたし、せっかくだから……」
「せっかくも何もないわよ! ほんっとうに、こんな時だけ意気地なしになるのどうしてなの!?」
なんだかよくわからないが、アリゼーがとても怒っている。その理由は皆目見当もつかないが、とりあえずシアは二人に仲良くしてほしかった――もちろん、もともと仲はとても良いのだけれど。
「まあまあ、せっかくだからアリゼーも一緒にお茶しよ?」
おいしいもの食べたら気も楽になるよ、と言うか言わないか。アリゼーの鋭い目つきが、今度はシアに向いた。
「えっ、なんで私を睨むの!?」
「あなたもどうしてそうなのよ、シア! 私こんな……こんな立場になりたくないわよ!」
「ご、ごめん、よくわかんないけど何か悪いこと言っちゃった!?」
「そうじゃ……そうじゃないけどッ……もう! こうなったらラハ、奢りなさいよ!」
グ・ラハがしゅんと耳を垂らして、もちろん、二人の分はオレが奢るよ、と言った。気を遣ってくれなくてもいいのに、と思ったが、このタイミングで口を開くと、ようやっとおさまったアリゼーの怒りがまた暴発しそうな気がしたので、シアは何も言わず、しょんぼりするラハくんもかわいいなあ、と思考を明後日の方向に向けた。
三人並んでラストスタンドへ向かう。お気に入りのあの席が空いていますように、と心の中で呟いてから、シアは大切で大好きな二人の手を握る。グ・ラハとアリゼーが揃って悲鳴をあげるのにも構わず、お気に入りの席に向かって三人手を繋いで駆けていった。
***
「それで、そこで食べた新メニューのサンドイッチがすごくおいしくて! もしオールド・シャーレアンに行く予定があったら絶対食べてほしくて、教えようと思って……って、二人とも、なにか面白いことあった……?」
ところ変わってラザハンにて。
その後、ラストスタンドで勧められた新メニューに、シアもグ・ラハもアリゼーもすっかり夢中になった。コーヒーとの相性もたまらなく、三人は結局、晴れやかな笑顔で別れたのだった。その感動をシアは伝えに来たのだが。
なぜだか、ヤ・シュトラはずっとくすくすと遠慮なく笑い続けており、エスティニアンも顔をそむけて笑いを噛み殺している。
「いいのよ。それがあなたの良いところなのだから」
「ええ……どういうこと……」
「日和ったグ・ラハが全部悪いってことだ、相棒」
「ラハくんは何も悪いことしてないけど!?」
「はいはい。ただ、少なくともアリゼーには謝っておきなさいな。あなたは彼女を『お邪魔虫』にしてしまったのだから」
「どういうこと!? もっとわからないよ!!」
頭を抱えるシアを見て、年長者二人が更に笑う。何が愉快なのかも、何を言われているのかも全くわからない。わからないが、それでも、怒っているよりはいいに違いない。ムキになりながらも、シアはそう思った。
こ、こんなかわいくて素敵な文章を頂いてしまいました!嬉しすぎる…他人の書いた自機と推し小説を拝めるなんて夢だろうか。夢じゃなかった。
読みながら「そうそう自機ってこういうとこあるんだよ~!」と赤べこになってしまいました。解釈完全一致。
暁の皆につつかれても全然わかんないよー!ってなるの可愛すぎ…自機かわいいね…。
これからも進展しそうであまりしない二人でいてくれ。そしてその二人をやきもきしながら見守ってくれアリゼーちゃん。
本当にありがとうございましたのんたさん!!!